更新 2021/2/22
排便トラブルと言えば下痢と便秘ですが、実はその定義については確固としたものがあるわけではありません。ここでは皆さんの感覚に近いと思われるものをお示しします。
下痢とは1日3回以上(もしくは普段より多い回数)の軟便・水様便であり、正常便の頻回の排泄は下痢ではありません〔WHO 2017〕。
便秘とは本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態です〔慢性便秘症診療ガイドライン 2017〕。
口から摂取された食物は食道、胃、十二指腸、小腸、大腸を経る過程で消化され、その残渣が肛門から便として排泄されます。口腔内で唾液とともに嚙み砕かれたものが胃・十二指腸・小腸から出る消化液によってさらに分解されます。摂取した水分とこれらの消化液を合わせると1日約10Lほどの水分が消化管内に流入しますが、小腸と大腸でほとんどの水分が吸収され、便として排泄される水分量はその1/100(100mL)だけです。
この便として排泄される水分量が通常より多いと下痢傾向に、少ないと便秘傾向になります。水分量が増減する機序はいくつかありますが、最も基本的なものは蠕動(ぜんどう)運動です。消化管は食物を口側から肛門側へ運ぶように動いており、これを蠕動運動と呼びます。小腸や大腸が腸管内の水分を吸収するには一定の時間がかかるので、蠕動運動が激しいと便の流れが速く水分が吸収されにくいため下痢に、蠕動運動が少ないと便が停滞して水分が吸収されすぎて便秘になります。その他、消化液が過剰に分泌される状態や、吸収されにくい高浸透圧性の物質が腸管内に水分を引き付ける状態(Mg系の下剤はこれを応用しています)では下痢になります。また、腸管に炎症を生じると、この炎症によって腸管内に水分が増えるため下痢になります。
リウマチ膠原病疾患にともなう下痢はこの炎症によるものが多く、全身性エリテマトーデス、ベーチェット病、家族性地中海熱、IgA血管炎などでみられます。全身性強皮症、混合性結合組織病、アミロイドーシスでは消化管の障害によって蠕動運動異常から下痢または便秘を生じることがあります。
下痢や便秘は様々な薬剤の副作用によってもしばしば引き起こされるものであるため、これらを生じた際は担当医に積極的に相談するようにしましょう。